考えるとは、本質的には何をすることなのでしょうか。
世の中の98%の人は、そもそも「考える」ことができない。
僕は普段から、あえてこう伝えています。
もちろん、これは統計調査から算出した数字ではありません。
目の前で起きたことに対して、思考を挟まず反射的に生きている人が、それほど多いという僕の現場感を表した言葉です。
「いや、考えているよ!」という反論が聞こえてきそうです。
しかし、実際に「考える」とは何をすることなのか、説明できる人は多くありません。
考えているつもりでも、思考できていないことは往々にしてあります。
売上が落ちたら、集客が悪いと決める。
相手に断られたら、価格が高かったと決める。
意見を否定されたら、自分を否定されたように感じて言い返す。
これらは答えを出しているように見えますが、刺激に対して、過去の経験や感情から最初の答えを返しているだけかもしれません。
ビジネスは課題解決の連続だからこそ、この反射に気づき、論理、検証、自己観察、構造と戦略へ思考を深めていく必要があります。
この記事では、本質的に考える力を「反射から戦略へ進む5段階」として整理します。
これは人の知能を測る学術尺度ではなく、複数の研究やビジネス書、そして僕自身がコンサルの現場で伝えてきた考えを統合した実践モデルです。
第1段階 刺激に反射する
最初の状態は、考える前に答えが出ている状態です。
心理学の二重過程理論では、人の認知には、速く自動的に動く処理と、意識的に検討する処理があると整理されています。
ダニエル・カーネマンは『ファスト&スロー』で、前者を「システム1」、後者を「システム2」として紹介しました。
厳密には、二重過程理論そのものがカーネマン一人の理論というわけではありません。
システム1とシステム2は、二つの処理の違いを理解するための代表的な整理です。
速い処理自体が悪いわけではありません。
危険を避ける時、慣れた作業をする時、経験から瞬時に判断する時には欠かせない働きです。
問題は、複雑な課題に対しても、最初に浮かんだ答えをそのまま採用することです。
「最近の若い人は根性がない」
「SNSが伸びないのはアルゴリズムのせいだ」
「売れないのは値段が高いからだ」
僕がこの状態を「動物的」と表現するのは、生物学的に人間だけが思考できるという意味ではありません。
刺激に動かされるだけで、自分が選び直す余地を持てていない状態を指しています。
思考の始まりは、正しい答えを出すことではありません。
いま出た答えが、思考の結果ではなく反射かもしれないと気づくことです。
この気づきは、独立した一つの段階ではありません。
反射から次の段階へ移る入口です。
第2段階 論理で構造化する
反射に気づいた後、初めて「なぜそう言えるのか」を組み立てる段階へ進みます。
ここが、一般にロジカルシンキングと呼ばれる領域です。
ロジカルシンキングとは、難しい言葉を使うことでも、話す速度が速いことでもありません。
事実、根拠、主張、結論の関係を整理し、相手が同じ道筋をたどれる形にすることです。
僕は、論理的思考には少なくとも三つの動きが必要だと考えています。
分ける
事実と解釈を分ける。
原因と結果を分ける。
主となる主張と、それを支える各論を分ける。
「売上が落ちた」という問題も、客数、単価、継続率、成約率に分ければ、見る場所が変わります。
フェルミ推定も、答えの分からない大きな問いを、計算できる要素へ分解する応用例です。
つなぐ
集めた情報を並べるだけでは、構造にはなりません。
どの事実がどの主張を支え、その間にどのような理由があるのかをつなぎます。
「閲覧数が減った。申込数も減った。だから投稿数を増やす」という話には、一見すると筋があります。
しかし、閲覧数の減少が申込減少の主因であるというつながりを説明できなければ、まだ仮説のままです。
具体と抽象を行き来する
具体だけでは、個別の出来事を並べて終わります。
抽象だけでは、きれいな言葉のまま現場で使えません。
一つの事例から共通する構造をつかみ、その構造を別の具体例へ落とせることが必要です。
相手が理解できていない時も、抽象的な結論を繰り返すのではなく、相手が知っている具体例まで降りて説明します。
教育心理学のSOLOタキソノミーでも、複数の情報を持っているだけの状態と、情報同士を関係づけて一つの構造として理解する状態、さらに別の場面へ一般化できる状態は分けて考えられています。
ロジカルシンキングとは、情報量の多さではありません。
分け、つなぎ、具体と抽象を往復できる構造理解の力です。
第3段階 前提と根拠を検証する
論理がつながっていても、前提が間違っていれば、間違った結論へきれいに進みます。
そこで必要になるのが、クリティカルシンキングです。
ロジカルシンキングが「話はつながっているか」を見る思考だとすれば、クリティカルシンキングは「そのつながりを信じてよいか」を見る思考です。
- その情報は誰が、どの条件で集めたものか
- 母数や比較対象は適切か
- 反対の事例はないか
- 別の原因でも同じ結果を説明できないか
- そもそも、解こうとしている問題は正しいか
クリティカルシンキングは、何でも否定する態度ではありません。
前提、根拠、判断基準、文脈を点検し、結論の強さを適切に調整する作業です。
例えば、個別相談の成約率が下がった時に、「価格が高いからだ」と仮説を立てたとします。
論理的には、価格への抵抗が増えれば成約率が下がるという筋は通ります。
しかし、相談へ来る人が変わったのかもしれません。
相手の悩みを十分に聞けていないのかもしれません。
商品の価値ではなく、必要性への合意が作れていないのかもしれません。
一つの筋が通ったところで考えるのをやめず、別の説明と比べる。
ここまで来て、課題解決の精度が上がります。
第4段階 考えている自分を観察する
論理的に考え、前提や根拠まで疑えるようになると、自分はかなり考えられる人間だと感じやすくなります。
しかし、批判の矛先が外側だけに向いている限り、自分の偏りは残ります。
そこで必要になるのが、メタ認知です。
メタ認知とは、自分が何を知り、どう考え、どこで偏っているかを一段上から観察し、必要に応じて調整する働きです。
「僕はなぜ、集客の問題だと思いたいのだろう」
「商品を見直す怖さから、SNSの数字へ逃げていないか」
「この提案を通したい気持ちが、都合のよいデータだけを選ばせていないか」
「相手の意見を疑っている僕自身の前提は、正しいのか」
クリティカルシンキングでは、情報、根拠、語り手、文脈を疑います。
メタ認知では、それらを疑っている自分自身も観察の対象へ入れます。
知能が高いことと、自分に都合のよい見方を避けられることは同じではありません。
筋道を作れる人であっても、自分の動機や感情を点検する仕組みがなければ、偏りは残ります。
外の論理だけでなく、その論理を選んだ自分まで見られることが、思考の大きな転換点です。
第5段階 全体構造を読み、介入点を選ぶ
最後は、システム思考と戦略的思考を統合した段階です。
ここでは、目の前の出来事を単体で見るのではなく、何と何が影響し合い、どのような時間差や循環によって、その結果が生まれているのかを見ます。
システム思考だけでは、構造を理解して終わることがあります。
戦略的思考だけでは、構造を見ずに計画や目標を並べる危険があります。
だから、この二つは分けるよりも、次の一つの問いにまとめた方が実務で使えます。
この結果を生んでいる全体構造は何で、どこへ、どの順番で働きかければ、最も大きく変わるのか。
経営学者Jeanne Liedtkaは、戦略的思考の要素として、システム視点、目的への集中、時間軸、仮説思考、機会への柔軟な対応を挙げています。
つまり、戦略的に考えることの中には、最初から全体をシステムとして捉える視点が含まれています。
売上が落ちている時、投稿数だけを増やすのは、目の前の数字への対処です。
構造を見ると、商品の約束が曖昧だから発信がぼやけ、合わない人が集まり、個別相談で説明が増え、成約後の成果も作りにくくなっているのかもしれません。
ここで戦略が行うのは、全部を一度に直すことではありません。
- 何が進行を妨げている中心課題なのかを診断する
- どの方向から解くかという方針を決める
- 互いに矛盾しない行動を、効果の出る順番で並べる
Richard Rumeltが『Good Strategy/Bad Strategy』で示した、診断、基本方針、一貫した行動という考え方にも重なります。
全体が見えるだけでは足りません。
今すぐ変える場所、後から変える場所、あえて触らない場所を選ぶ。
仮説として小さく動き、結果を見て修正する。
構造理解を、介入の選択と実行順序へ変えるところまでが、本質的な課題解決です。
「気づき」は段階ではなく、すべての成長の入口
ここまでの5段階には、「基本的な気づき」という独立した段階を置いていません。
気づきは、反射から論理へ移る時だけでなく、どの思考を身につける時にも必要になる入口だからです。
僕がコンサルの時によく伝えている、次の4つの状態があります。
- 無意識無能:できていないことに気づいていない
- 有意識無能:できていないことに気づいている
- 有意識有能:意識すればできる
- 無意識有能:意識しなくてもできる
これはNoel BurchがGordon Training Internationalで整理した、技能習得の4段階として知られています。
思考の深さを示す5段階とは、別の軸です。
例えば、ロジカルシンキングには慣れていて、意識しなくても話を構造化できる人がいるとします。
その人は、論理的思考では無意識有能です。
しかし、自分の前提を疑うメタ認知については、できていないことにも気づいていないかもしれません。
その場合、メタ認知では無意識無能です。
つまり、人は5段階を一度登って終わるのではありません。
新しい思考の使い方に出会うたびに、無意識無能から有意識無能へ進み、意識すればできる状態を経て、無意識でも使える状態まで練習します。
有意識無能から有意識有能の間は、頭を使い、違和感があり、うまくできない自分も見えます。
それまでのコンフォートゾーンを出るため、気持ち悪さやストレスを感じやすい時期です。
それでも続けると、意識していた型が少しずつ自然に使えるようになります。
そこで生まれる無意識有能の状態が、進化した自分にとっての新しいコンフォートゾーンです。
ただし、最初の反射と無意識有能は同じではありません。
反射は、検証されていない過去の癖が自動で出る状態です。
無意識有能は、意識的な練習と修正を通して身についた技能が自然に出る状態です。
自分の思考がどこで止まっているかを確認する5つの問い
いま抱えている事業課題を一つ選び、次の順番で確認してみてください。
- 反射:問題が起きた瞬間、最初に浮かんだ結論は何か。
- 論理:事実、根拠、主張、結論はどうつながっているか。
- 検証:その前提を疑うなら、別の原因や反対の証拠は何か。
- メタ認知:自分は何を信じたくて、何を見たくないのか。
- 構造と戦略:全体のどこへ、どの順番で介入すれば、最も大きく結果が変わるか。
答えを全部書けることが目的ではありません。
どの問いで言葉が止まるかを見ることが、現在地の確認になります。
忙しいのに判断が散らかっている方は、忙しいのに前に進まないのは、時間管理の問題ではないも合わせて使ってみてください。
本質的に考えるとは、答えを早く出すことではない
ロジカルシンキングは、ビジネスに欠かせない力です。
ただし、ロジカルシンキングだけで、本質的に考えられるわけではありません。
構造化した論理を検証する。
その論理を選んだ自分も観察する。
さらに、問題を生んでいる全体構造を読み、変える場所と順番を選ぶ。
ここまで進んで、思考は課題解決へつながります。
考える力は、難しい話ができることでも、知識をたくさん持っていることでもありません。
刺激と反応の間に選択を作り、必要な思考を使って、次の一手を決められることです。
自分の状態と判断の関係を深めたい方は、仕事も収益も人間関係も、最初に変えるべきは「自分の状態」だったも読んでみてください。
ここまで読んで、自分の課題が論理、前提、自分の偏り、全体構造のどこで詰まっているか分からない方は、ホームの価値を上げるための1分診断から整理してみてください。
集客の問題に見えても、実際には商品、対話、優先順位、判断する時の状態に、先に直すべき場所が隠れていることがあります。