「去年と同じくらい売れているのに、前より生活が苦しい気がする」
「仕事のやり方は変えていないのに、ツール代や広告費が重くなった」
「提案への反応は悪くないのに、お客さんが急に『今は見送ります』と言い始めた」
こういう時、僕たちはまず自分の努力を疑います。
営業が足りないのか、商品が弱いのか、もっと働くべきなのかと考える。
もちろん、見直すべきことが自分の中にある場合もあります。
ただ、全部を自分の努力だけで説明しようとすると、見落とすものがあります。
生活費、会社のコスト、お客さんが使えるお金は、自分一人の頑張りだけでは動いていないからです。
僕自身、経済やニュースにはほとんど興味がありませんでした。
政治、金融、投資と聞くと、難しそうで、自分の仕事とは別の世界の話に感じていた。
仕事を取ること、技術を身につけること、営業やマーケティングを覚えることの方が大事だと思っていました。
その感覚は、今でも間違っていないと思います。
独立したばかりの時期なら、まず目の前の仕事で価値を出し、売上を作る方が優先される場面はあります。
経済ニュースを毎朝チェックしないと独立できないわけでもありません。
それでも、自分で生活と会社の判断を引き受けるようになると、経済をまったく知らないままでは見えにくい変化が増えてきます。
この記事で伝えたいのは、経済に詳しい人になりましょうという話ではありません。
自分の努力だけで説明できない変化を見つけ、少しマシな意思決定をするために、経済を使おうという話です。
独立直後は、経済より先に覚えることがある
フリーランスや1人社長が独立した直後に必要なのは、難しい経済学ではありません。
お客さんの役に立つ仕事を覚え、依頼を受け、納品し、対価をもらう。
そのための技術、営業、発信、マーケティングを身につけることは、どう考えても重要です。
経済を知らないから仕事ができない、ということではありません。
GDPや金利の意味を説明できなくても、腕のいいデザイナー、コンサルタント、職人、講師にはなれます。
質問者
「だったら、経済の勉強は売上が大きくなってからでよくないですか?」
先生
「売上を作る前に、ニュースを追いかける必要はありません。」
「ただ、売上が立ち始めた時から、売上以外の変化も判断に入ってきます。」
例えば、海外のサービスを使っていれば、円の価値が変わるだけで利用料が上がることがあります。
広告を出していれば、同じ予算で届く人数が減ることもあります。
お客さんの会社や家計が厳しくなれば、必要性を感じていたサービスでも、決断を先延ばしにするかもしれません。
ここで大事なのは、経済を知っていれば未来を当てられる、ということではありません。
何が起きているのかを、自分の能力不足だけで片づけずに考えられることです。
自分のビジネスの数字と、世の中の経済は分かれていない
売上は自分の会社の数字です。
一方で、物価、金利、為替、景気といった経済の言葉は、テレビの向こう側にある大きな話に聞こえるかもしれません。
でも、1人社長にとっては、この2つは切り離せません。
自分の会社は、生活者である自分、取引先、お客さん、仕入れ先、使っているサービスとつながっているからです。
物価は、モノやサービスの値段全体がどう動いているかを見る言葉です。
インフレとは、個別の商品がたまたま値上がりすることではなく、モノやサービス全体の価格水準が継続的に上がることです。
為替は、円とドルのように、国ごとのお金を交換するときの比率です。
円安になると、海外通貨で決まっているサービスや輸入品は、円で払う金額が増えやすくなります。
金利は、お金を借りたり預けたりする時の価格のようなものです。
借入がある会社にとっては返済負担に関わり、住宅ローンや設備投資を考えるお客さんの判断にも影響することがあります。
質問者
「物価や為替が動いたからといって、僕の小さな商売まで本当に変わるんですか?」
先生
「必ず同じ形で変わるわけではありません。」
「ただ、生活費、会社のコスト、お客さんの財布のどこかに変化が出ていないかを見る理由にはなります。」
例えば、月額サービスが値上がりした時、単に経費が増えたとだけ考えることもできます。
でも、海外サービスの料金や為替も関係していると分かれば、来月も同じ感覚で固定費を増やしてよいかを考えるきっかけになります。
お客さんの申し込みが減った時も、すぐに「商品に価値がない」と決める必要はありません。
家計や会社の支出を見直す人が増えているのか、業界全体で予算が動いているのか、自分の提案が今の状況に合っていないのか。
自分の中と外を分けて見ることで、次に確認する場所が変わります。
経済を見ると、生活・会社・お客さんを一緒に考えられる
経済を学ぶ目的は、専門用語を暗記することではありません。
1人社長なら、少なくとも次の3方向へ戻って考えられれば十分です。
1. 自分の生活に何が起きているか
同じ売上でも、食費、家賃、光熱費、保険料、教育費などが上がれば、手元に残る感覚は変わります。
売上だけ見て「去年と同じだから大丈夫」と判断すると、生活に必要なお金の変化を見逃します。
2. 自分の会社に何が起きているか
ソフトウェアの利用料、広告費、外注費、仕入れ、借入の返済などは、会社の利益やキャッシュに影響します。
ここでいうキャッシュは、帳簿上の利益ではなく、実際に手元で支払いに使えるお金のことです。
売上が増えていても、コストや入金タイミングが変われば、使えるお金が増えているとは限りません。
だから、売上だけでなく、何にお金が出ていき、何が変わったのかを見る必要があります。
3. お客さんに何が起きているか
お客さんもまた、生活費や会社のコストが変わる中で判断しています。
高額な提案を断られた時、相手の本気が足りないと決めつける前に、何を守ろうとしているのかを考えてみる。
値下げをすれば解決するとは限りません。
今すぐ必要な問題として伝わっていないのか、支払い方に不安があるのか、導入後の回収イメージが持てないのか。
経済を見ることは、相手の事情を雑にしないための手がかりにもなります。
質問者
「でも、ニュースを見ても、結局『株価が上がった』『GDPが下がった』で終わってしまいます。」
先生
「数字を覚えるところから始めなくて大丈夫です。」
「そのニュースが、生活、会社、お客さんのどこに関係しそうかを1回考えるだけで、読み方が変わります。」
GDPは、国内で新しく生み出された付加価値の合計を表す代表的な指標です。
付加価値とは、簡単に言えば、商品やサービスを生み出した額から、そのために使った原材料や外部サービスなどの額を引いて残る、新しく生み出された部分です。
GDPの数字そのものを暗記する必要はありません。
国全体でどれくらい経済活動が行われているのかを見るための数字だと知っておくと、景気のニュースを「自分とは無関係な暗号」で終わらせずに済みます。
GDP、物価、金利、為替は、このシリーズで1つずつ日常の言葉へ戻しながら扱っていきます。
ニュースを毎日追うより、変化に気づく質問を持つ
経済を学ぶと言うと、新聞を最初から最後まで読み、専門家の解説を追い続ける姿を想像するかもしれません。
でも、仕事と生活を回している1人社長に必要なのは、情報を増やし続けることではありません。
まずは、変化が起きた時に次の3つを確認できれば十分です。
- 自分の生活で、前よりお金がかかるようになったものは何か
- 自分の会社で、売上以外に増えたコストや遅くなった入金はあるか
- お客さんが、以前より慎重になっている支出や判断は何か
この3つに答えるために、必要になった言葉だけを調べればいいのです。
「円安だから何が上がったのか」ではなく、「このツール代が上がったのは、円安も関係しているのか」と自分の現場から入る。
この順番なら、経済は試験科目ではなくなります。
質問者
「経済を知れば、売上が下がる前に全部わかるようになりますか?」
先生
「残念ながら、未来を正確に当てることはできません。」
「でも、変化が起きた後に慌てて『もっと頑張る』だけで終わるより、確認して選べることは増えます。」
値上げが続くなら、固定費を見直すのか、価格を見直すのか、売り方を変えるのかを考えられます。
お客さんの判断が慎重になっているなら、提案の順番や支払い方法、今すぐ解くべき問題の伝え方を見直せます。
経済は答えをくれるものではなく、判断を雑にしないための地図のようなものです。
今日できる小さな確認ワーク
最後に、ノートやメモを開いて、次の3つだけ書いてみてください。
- この半年で、自分の生活で高くなったと感じるもの
- この半年で、会社の経費や入金で変わったもの
- 最近、お客さんが迷ったり先延ばしにしたりしているもの
答えが見つからなくても大丈夫です。
大事なのは、売上だけを見て自分を責める前に、外で起きている変化を探す習慣を作ることです。
このシリーズでは、そもそも経済とは何か、お金とは何か、価値や付加価値、GDP、物価、金利、為替といった言葉を、1人社長の生活と商売へ戻しながら順番に扱います。
知識を増やすためではなく、自分の会社とお客さんに起きていることを説明し、次の判断を少し良くするために進めていきます。
経済の変化を知ることは、ニュース通になるためではありません。
自分の努力と外部環境を分けて見て、生活、会社、お客さんのどこから手をつけるかを選ぶための道具です。
ただ、自分の会社で何が起きているのかは、一般論だけでは判断しにくいものです。
売上、固定費、手元のお金、お客さんの反応を並べた時に、どこを先に見直すべきかで迷うこともあります。
「自分の場合、今起きている変化をどう見ればいいのか」を一緒に整理したい方は、個別相談のお申し込みはこちらから声をかけてください。
数字やニュースに詳しいかどうかではなく、今の生活と事業で何を守り、何を変えるかを考えるところから始めましょう。