初回商談の終わりが近づくと、急に焦ることがあります。
せっかく時間をもらったのだから、自分が何をできるかまで説明しなければと思うからです。
相手の話を聞き、途中で思いついた提案を話し、料金も聞かれたので答える。
終わった後には、何を約束したのか、自分でも少し曖昧になっている。
この進め方がいつも悪いわけではありません。
課題が明確で、依頼内容も単純で、必要な情報がそろっているなら、初回で見積もりや具体的な進め方を提示してもよい場面はあります。
ただ、法人の相談では、目の前の人が見ている課題と、会社として決めるべきことが一致していない場合があります。
その状態で提案を急ぐと、相手のために話していたはずなのに、こちらのサービス説明だけが先に進んでしまいます。
初回商談で必要なのは、必ず二回に分けることではありません。
今わかっていることと、提案の前に確かめるべきことを分けることです。
初回で説明を急ぐと、相手の言葉が置いていかれる
初回の商談では、相手もまだ自社の状況を整理しきれていないことがあります。
「問い合わせを増やしたい」
「研修を見直したい」
「営業がうまく回っていない」
こうした言葉は、相談の入り口としては十分です。
けれど、そのまま提案内容を決めるには、まだ幅があります。
たとえば「営業がうまく回っていない」と言っても、集客が足りないのか、商談の引き継ぎが曖昧なのか、提案の内容がそろっていないのかで、必要な支援は変わります。
現場の担当者と責任者で、困っている場面が違うこともあります。
ここで「では営業研修をやりましょう」と答えると、話が早く進んだように見えます。
しかし、相手は自社の問題を十分に話せず、こちらは研修が必要だと決めた状態になります。
提案が通らなかった時に、価格や資料の問題だけを疑いたくなるかもしれません。
その前に、初回で課題を確かめる時間を残せていたかを振り返る必要があります。
商談回数ではなく、工程を分けて考える
法人商談は、ヒアリングと提案を別の時間に置くことが多いです。
ただし、「法人なら必ず二回商談する」というルールが大切なわけではありません。
大切なのは、準備、課題把握、提案、導入という工程を混ぜないことです。
一回の商談で二つ以上の工程を進めることはあります。
それでも、何を確認し、何を確定し、何を次回までに持ち帰るかが分かれていれば、会話は崩れません。
準備の段階では、相手の事業、公開されている取り組み、これまでの接点を読みます。
目的は、正解を当てることではなく、当日に確かめる仮説を持つことです。
課題把握の段階では、現場で何が起きているか、誰が困っているか、これまで何を試したかを聞きます。
ここでの提案は、「この課題なら、この方向で整理できそうです」という仮説までで十分なことがあります。
提案の段階では、確認できた課題に対して、どこまでを一緒に担うか、どんな順序で進めるか、費用や期間をどう置くかを示します。
導入の段階では、開始日、担当、連絡の取り方、最初に確認することを決めます。
初回でどこまで進めるかは、案件の複雑さと情報の確かさによって変わります。
工程を分けて見ておけば、「提案を出すのが遅い」のではなく、「今は何を確かめる時間か」を判断できます。
初回の終わりに、何が確認できていればよいか
初回商談の終わりに、必ず契約や見積もり提示まで進めなければならないわけではありません。
むしろ、未確認のまま条件を確定すると、後から両者が困ります。
初回で置きたい終了条件は、次の三つです。
- 相手が話した課題を、こちらがどう理解したか確認できている。
- その課題を判断するために、まだ足りない情報が分かっている。
- 次に誰と、何を確認するかが決まっている。
この三つがそろえば、初回の時間には意味があります。
その場で具体的な提案まで進めるかは、三つ目までがそろってから決めればよいのです。
反対に、相手の課題が明確で、決める人も同席していて、必要な条件がそろっているなら、初回に提案や見積もりを示しても構いません。
判断の基準は商談回数ではなく、提案の土台が確認できているかです。
架空の研修相談で、確定と未確認を分けてみる
たとえば、架空の会社から「若手社員向けに営業研修をしてほしい」と相談を受けたとします。
この時、依頼内容が明確に見えるので、すぐ研修の時間数と価格を提示したくなるかもしれません。
でも、最初に確かめたいことがあります。
研修を頼みたい背景は、若手が商談を苦手としているからなのか。
営業ごとに説明が違い、引き継ぎがうまくいっていないからなのか。
新しい商品を出す前に、提案の軸をそろえたいからなのか。
同じ「営業研修」でも、目的が違えば内容も、参加者も、研修後に残すものも変わります。
担当者が「若手の自信をつけたい」と考え、責任者は「失注理由を減らしたい」と考えているかもしれません。
初回では、「研修を実施する」という依頼と、「何を変えたいのか」という課題を分けて聞きます。
すでに確定しているのは、研修を検討していることです。
未確認なのは、誰のどんな行動を変えたいのか、どの場面を改善と見るのか、誰が最終的に判断するのかです。
その区別がつけば、次の提案は研修メニューの一覧ではなく、相手の状況に合わせた選択肢になります。
相手も「言われた研修を買う」のではなく、「自社に必要な支援を判断する」会話に入れます。
小さな確認ワーク|終了5分前に聞く三つのこと
次の初回商談では、終了5分前に説明を足す前に、三つだけ確認してみてください。
- 今日の話を聞いて、私の理解にずれているところはありますか。
- 提案を考える前に、社内で確認した方がよいことはありますか。
- 次に話すなら、誰と何を決められる時間にするとよさそうですか。
この三つは、会話を先延ばしにするための質問ではありません。
提案が相手の実情から外れないようにするための質問です。
回答を聞いたら、「では次回までに、今日確認できた課題に対する案を整理します」と約束できるかもしれません。
あるいは、「まずは社内で確認していただき、分かった時点で次の時間を決めましょう」とする方が誠実な場合もあります。
大切なのは、次回を取ることだけを目的にしないことです。
次に進む理由と、そこで確かめることが共有されている状態をつくります。
提案の前に、相手と同じ地図を見る
初回商談で相手の話をよく聞いたつもりでも、こちらが急いで答えを出すと、同じ課題を見られていないまま提案に入ります。
それでは、どれだけ丁寧な資料を作っても、相手にとっては少しずれた提案になるかもしれません。
初回で持ち帰ることは、提案を先送りにすることではありません。
相手の課題を共同で整理し、次に出す提案を選ばれるものにする準備です。
商談のたびに説明が長くなり、どこまで提案してよいか迷うなら、今の商談を準備、課題把握、提案、導入の四つに分けて見直してみてください。
個別相談では、初回で確かめるべきことと、提案で初めて決めることを分けながら、次の商談の目的を一緒に整理します。

