担当者との打ち合わせは、よく話が弾んだ。
こちらが整理した課題にも納得してくれて、次に進めそうな感触があった。
ただ、最後に「一度社内で相談します」と言われた瞬間、何を頼めばよいのか分からなくなることがあります。
決裁者にも同席してもらうべきなのか。
担当者に資料だけ渡して待つべきなのか。
ここで焦って「決裁者の方をご紹介ください」と言うと、かえって相手を困らせることがあります。
担当者には担当者の役割があり、社内でどう進めるかをまだ整理できていない場合もあるからです。
法人商談で大事なのは、担当者を飛び越えて上の人へ売り込むことではありません。
担当者と一緒に、誰が何を判断し、そのために次に何を話すかを整えることです。
担当者の共感から、社内の判断へ進むには
担当者が「それは困っています」と言ってくれたことには意味があります。
現場の課題を理解してもらえたということです。
けれど、その人が契約の可否を一人で決められるとは限りません。
上司、別部署、経営者、予算を持つ人など、案件によって判断に関わる人は変わります。
担当者が社内へ戻った後には、別の会話が始まります。
「今これを優先する理由は何か」
「誰の仕事がどう変わるのか」
「費用や進め方は妥当か」
この会話を、担当者一人の説明力だけに任せると、提案の良さが届きません。
だからといって、担当者の了解なしに上司へ近づこうとすれば、今度は信頼を失います。
必要なのは、相手の社内にある判断の流れを、勝手に想像して決めることではありません。
担当者本人に確認しながら、次の会話を共同で設計することです。
「決裁者は誰ですか」だけでは、会話が浅くなる
法人営業では、決裁者を確認すること自体は必要です。
ただ、肩書きだけを聞いても、次に何をすればよいかは決まりません。
たとえば「最終決裁は部長です」と分かったとしても、部長が最初から同席した方がよい案件もあれば、担当者が論点を整理してから相談した方がよい案件もあります。
判断する人が、現場の詳細を知りたいのか、事業全体への影響を知りたいのかでも、必要な準備は違います。
そこで聞きたいのは、肩書きだけではありません。
- 今回の話を進める時に、最終的にはどなたの判断が必要ですか。
- その方は、何が分かると判断しやすそうですか。
- まずは担当者の中で整理した方がよいことはありますか。
- 次に話すなら、いつ、誰と、何を確認できると進めやすいですか。
質問の目的は、決裁者へ会わせてもらう約束を取ることではありません。
担当者が社内で無理なく説明でき、必要な人が必要なタイミングで参加できる道筋を見つけることです。
判断する人ごとに、知りたいことは違う
ここでは、架空の広報支援の相談で考えてみます。
ある会社では、広報担当者が発信を続けているものの、営業から「問い合わせにつながっているのか分からない」と言われていました。
担当者が困っているのは、投稿企画を毎週考える負担と、社内で成果を説明しづらいことかもしれません。
一方で、責任者が見たいのは、投稿の本数ではなく、営業との連携がどう変わるのか、どこまで人手をかけるのか、いつ見直せるのかかもしれません。
同じ支援でも、二人が知りたいことは同じではありません。
担当者にだけ作業内容を詳しく説明しても、責任者の判断材料が足りないことがあります。
逆に、責任者向けの大きな話だけをして、担当者の実務上の不安を置き去りにしても、社内で進みません。
担当者の困りごとと、組織としての判断を、両方つなぐ必要があります。
この時、提案する側が一方的に答えを決める必要はありません。
「今伺った話だと、担当者の負担を減らすことと、営業につながる流れを見えるようにすることの両方が論点になりそうです」と仮説として置きます。
そのうえで、「社内で判断する時にも、この二つを整理した方がよさそうでしょうか」と確かめます。
相手が修正できる余地を残すからこそ、提案が押しつけではなく、共同で考える材料になります。
同席を頼む前に、参加する理由を決める
決裁者や上司に同席してもらうことが有効な場面はあります。
現場と経営の見方が食い違っている時や、開始条件をその場で決める必要がある時には、早めに話せる方が進みやすいこともあります。
ただし、同席者を増やせば商談が進むわけではありません。
何を決めるために参加してもらうのかが曖昧なままでは、初対面の説明会になり、かえって判断が先延ばしになります。
次回の目的は、一つに絞ってみてください。
たとえば、次のような目的です。
- 現場で起きている課題の理解が合っているかを確かめる。
- 支援の範囲と、社内で担う範囲を分ける。
- 進める場合に必要な予算や開始時期の条件を確認する。
「決裁者に会う」が目的ではなく、判断に必要な会話を置くことが目的です。
ここが決まると、誰に参加してもらうべきかも自然に見えてきます。
小さな確認ワーク|次の商談の目的を一文にする
いま進んでいる案件を一つだけ思い浮かべてください。
担当者との会話を振り返り、次の三つを書き出します。
- 今回の話で、すでに合意できていることは何か。
- まだ分からず、社内で判断が必要なことは何か。
- その判断に関わる人は、何を知れば判断できるか。
次に、「次回は、誰と、何を確認するための時間か」を一文にしてみてください。
「次回は、広報担当と営業責任者の方に、問い合わせにつなげるまでの役割分担を確認していただく時間にしたいです」のように書ければ十分です。
まだ一文にできないなら、提案を急ぐより、担当者に聞くべきことが残っています。
担当者へ送る連絡も、資料の送付だけで終わらせず、「社内で検討される際に、足りない情報があれば教えてください」と添えると、次の対話を残せます。
担当者と、判断の道筋をつくる
法人案件は、提案する側と決裁者だけの関係で決まるものではありません。
担当者が課題を理解し、自分の言葉で社内へ話せて、必要な人を次の会話へつなげられる時に進みます。
だから、担当者を経由しなければならない相手として見る必要はありません。
一緒に判断の道筋をつくる相手として見ると、聞く質問も、次回の置き方も変わります。
今の法人商談で、誰に何を届ければよいかが曖昧なら、提案内容より先に意思決定の流れを整理してみてください。
個別相談では、担当者との会話、提案書、社内で必要になりそうな判断を並べながら、次に確認する一つを一緒に見つけます。

