商品を使うのは本人なのに、買うのは本人ではない。
この構造を見落とすと、利用者には良さそうなのに、紹介もギフトも選ばれない商品になりやすいです。
子どもが通う教室、社員が受ける研修、誰かへ贈るチケットを考えてみてください。
使う本人だけが「これが欲しい」と思えば売れる商品ではありません。
お金を払う人にも「これを選ぶ理由」があり、場合によっては紹介する人にも「勧める理由」が必要です。
この3者をまとめて「お客様」と呼ぶと、商品説明が急にぼやけます。
誰に向けて何を約束しているのかが、1文の中で混ざってしまうからです。
スターバックスのeGiftは、買う人と使う人が違う商品を考える材料になります。
公式サイトでは、贈る人がカードとメッセージを選び、決済後に発行されるURLをメールやSNS、ダイレクトメッセージで送る流れが案内されています。
受け取る人はURLを開き、表示されたQRコードを店舗のレジで提示して商品を利用します。
この仕組みは、贈る人には「気持ちをすぐ形にして渡せること」を、受け取る人には「自分で選んだ一杯を楽しめること」を渡す設計だと読めます。
これは公式に書かれた効果の断定ではなく、贈り方と使い方の構造から見える解釈です。
スターバックス eGiftの流れを、役割ごとに見る

図の上段にはギフトを受け取る人を置き、中段には贈る人、eGift、店舗を並べ、下段には運営するスターバックス コーヒー ジャパンを置きました。
点線は、関わる人と、商品を提供する仕組みを分けて読むための境界です。
ここを1人の顧客にまとめないことで、誰の行動が次の行動を生んでいるのかを追えます。
贈る人がeGiftへ決済すると、eGiftから贈る人へURLが発行されます。
贈る人はURLとメッセージを受け取る人へ送り、受け取る人は店舗でQRコードを提示して、選んだ一杯を受け取ります。
下段の灰色線は、スターバックス コーヒー ジャパンがeGiftと店舗を運営する関係です。
橙のタグは対価、青い四角はURLやQRコードのような情報、緑の丸は利用者へ届く商品、灰色の線は運営上の関係を表しています。
色は装飾ではなく、何が動いているかを分けて読むための記号です。
この図で大事なのは、受け取る人が支払いをしなくても、商品との接点はそこで終わらないことです。
受け取る人はURLを開き、店舗へ行き、商品を選び、QRコードを提示します。
購入後にも利用者の意思決定があるため、贈る人だけに説明して終わる商品ではありません。
買う前の意思決定と、使う時の意思決定は別にある
商品を1人の顧客だけで考えると、買う場面だけに意識が集まりがちです。
しかし、支払う人と使う人が違う時は、少なくとも2つの意思決定があります。
1つ目は、支払う人が「これを渡そう」と決める場面です。
eGiftでは、相手や場面に合わせてカードを選び、メッセージを添え、決済して送る流れがあります。
ここで支払う人が見ているのは、商品の味や機能だけではありません。
相手に渡したい気持ちに合うか、すぐ送れるか、渡した後に負担にならないかも判断材料になります。
2つ目は、受け取る人が「使おう」と決める場面です。
公式サイトでは、URLを開くとメッセージ画面とチケットのQR画面が表示され、会員登録やログインなしで利用できると案内されています。
店舗で好きな商品を注文し、QRコードを提示する手順です。
受け取りから利用までの障害を減らすことも、商品設計に入っています。
支払う人にだけ喜ばれる商品は、使われずに終わるかもしれません。
利用者にだけ喜ばれる商品は、支払う人の購入理由をつくれないかもしれません。
どちらも必要だから、購入前と購入後をつないで見ます。
買う決定と、使い続ける決定を同じものとして扱わないことが、ここでの要点です。
その間にある受け取り方まで設計して初めて、商品は相手へ届きます。
支払う人、使う人、紹介する人は、見る言葉が違う
同じ商品でも、誰が読むかで必要な説明は変わります。
ここを分けずに1枚の販売ページ、1本の紹介文、1つの案内メールで済ませると、誰にも十分に刺さらないことがあります。
| 人 | その人が決めること | 伝えるべきこと | 設計で確かめること |
|---|---|---|---|
| 支払う人 | 自分のお金を払うか | 相手へ何を渡せるか、負担なく渡せるか | 購入の場面、価格の納得、手続きの負担 |
| 使う人 | 実際に使うか、続けるか | 自分に何が起きるか、どう使えばよいか | 利用開始の手間、選べる余地、変化の実感 |
| 紹介する人 | 誰かへ勧めるか | 自分の信用を使っても勧められるか | 紹介の理由、説明のしやすさ、相手との相性 |
紹介する人は、全ての商品に必要なわけではありません。
ただし、知人からの推薦、法人の担当者、保護者、提携先のように、支払う人と使う人の間に誰かが入る事業では無視できない存在になります。
紹介者は、商品を直接使わないこともあります。
それでも「この人なら安心して勧められる」「相手にどう説明すればよいか分かる」と感じなければ、紹介は起こりにくいです。
紹介者向けには、利用者と同じ魅力を繰り返すより、誰に合うか、どんな変化が起きるか、どんな時に勧めないかを短く渡す方が役に立ちます。
ギフト以外にも、この構造はある
この考え方は、ギフト商品だけの話ではありません。
ひとり社長やフリーランスの仕事にも、支払う人と使う人が違う場面は多くあります。
企業研修では、決裁する人と学ぶ人が違う
企業研修では、担当者や経営者が予算を出し、社員が学びます。
担当者は、この研修で組織のどの課題に手を打てるかを知りたいはずです。
受講者は、明日の仕事で何を変えられるかを知りたいはずです。
研修内容を丁寧に並べても、担当者が導入理由を説明できなければ決裁に進みにくくなります。
一方で、導入効果だけを大きく語って、受講者が実践できる場面を見せなければ、参加後の変化につながりにくくなります。
同じ研修でも、提案資料と受講案内では役割を分けて考える必要があります。
子ども向けサービスでは、保護者と本人が違うものを見る
子ども向けの教室や体験では、保護者が申し込み、子どもが参加します。
保護者は安全性、通いやすさ、成長への納得を見ます。
子どもは楽しいか、できそうか、また行きたいかを感じます。
保護者向けの説明だけが整っていても、子どもが参加したくならなければ継続しにくくなります。
子どもが楽しそうでも、保護者が費用や通い方を納得できなければ申し込みに進みにくくなります。
両方へ同じ言葉を使うのではなく、約束する変化をそれぞれの言葉に直すことが必要です。
代理購入では、使う人の選べる余地が重要になる
代理購入やプレゼントでは、支払う人が利用者の好みを全て把握しているとは限りません。
そのため、受け取る人が選択できる範囲があるかどうかが大切になります。
eGiftでも、受け取る人は店舗で商品を注文します。
これは、選択肢が多ければよいという意味ではありません。
支払う人が渡したい価値と、利用者が自分で決めたい部分の境界がどこにあるかを探す、という意味です。
たとえば講座なら、到達してほしい変化は決めつつ、事例や実践テーマの選択肢を用意する方法があります。
真似するのはギフト機能ではなく、価値を分ける視点
eGiftを見て「自分の商品にもギフト機能を付けよう」と考える必要はありません。
誰かのために買う理由が弱い商品や、利用者が自分で受け取る意味を感じにくい商品に、ギフトの仕組みだけを足しても使われにくいからです。
真似したいのは、支払う人の判断と、使う人の判断を別々に扱う視点です。
自分の商品を次の順番で見直してみてください。
- 誰がお金を払うのか
- 誰が実際に使うのか
- 誰が紹介や決裁に関わるのか
- それぞれは、何を不安に思い、何があれば次へ進めるのか
- その人ごとに、どの言葉、案内、体験を渡しているのか
この5つが1人分しか書けない時は、利用者以外の意思決定を見落としているかもしれません。
反対に、3者すべてに別の説明をつくり始めて混乱する時は、商品そのものの約束がまだ定まっていない可能性があります。
説明を増やす前に、全員へ共通して約束する変化を1つに戻すことが先です。
この視点を、マーケティングへ横展開する
支払う人と使う人を分けて見ると、集客や販売で見る数字の意味も変わります。
購入数だけを追うと、どの人の意思決定が止まっているのかが分かりません。
支払う人が商品を知っているのに買わないのか、買った後に使う人が始められないのか、使った人が紹介したくならないのかで、直す場所が変わります。
支払う人に向けた発信では、相手へ渡せる変化と、購入までの不安を扱います。
たとえば企業研修なら、内容の一覧より先に、どの現場課題をどう扱うのかを伝える必要があります。
子ども向けサービスなら、保護者が知りたい安全性や通い方と、子どもが感じる楽しさを同じ文章に詰め込みすぎない方が伝わります。
使う人に向けた発信では、利用を始めた瞬間に何をすればよいかと、変化を感じられる場面を扱います。
「買ってよかった」と思うまでの道筋が見えなければ、支払う人がどれだけ納得しても、商品は継続や紹介へつながりにくくなります。
紹介する人に向けた発信では、誰に合うのかをはっきりさせます。
誰にでも勧められる商品に見せようとするほど、紹介者は自分の信用を使いにくくなります。
合わない人や、先に別の選択が必要な人まで言葉にすると、紹介者は相手へ渡す判断をしやすくなります。
つまり、広告、販売ページ、提案資料、利用後の案内を別々の作業として増やすのではありません。
同じ商品に関わる人の意思決定を順に支えるものとしてつなぐことが、マーケティングの設計になります。
今日の1問|あなたの商品で、お金を払う人と価値を受け取る人は同じですか?
同じではない場合、紙を3つに分けて「支払う人」「使う人」「紹介する人」と書いてください。
紹介する人がいない事業なら、その欄は空欄のままで構いません。
それぞれの欄に、次の3つを書いてみましょう。
- その人は、何を不安に思うか
- その人は、何が分かれば次へ進めるか
- その人は、商品を通じて何ができるようになるか
3人ともに同じ答えが並ぶなら、同じ言葉で伝えてよい部分が多いかもしれません。
答えが違うなら、商品が複雑なのではなく、複数の意思決定があるということです。
誰に何を渡すかを分けると、商品ページ、提案資料、紹介文、利用開始後の案内をどこから直すべきかが見えます。
支払う人、使う人、紹介する人の関係を自分の事業でどう整理すればよいか迷う時は、個別相談で3者がどこで納得し、どこで止まっているかを一緒に見ます。
商品説明だけを直す前に関係を整理すると、誰へどんな言葉を渡すべきかが具体になります。