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アボカドマーケティング|知られていない商品が「定番」になるまで

スーパーの青果売り場で、アボカドが普通に積まれている。
居酒屋にはアボカドとマグロのメニューがあり、家庭でも醤油をつけて食べる。
今では何も不思議に感じません。

でも、ある時ふと疑問に思いました。
甘くない。
皮の外から食べ頃も分かりにくい。
昔の日本人にとっては、切り方も食べ方も分からなかったはずの果物が、どうやってここまで当たり前になったのだろう、と。

気になって、その経緯を調べてまとめてみました。
すると、これは単なる食文化の歴史ではありませんでした。
知られていない商品をどう認識してもらい、試してもらい、選ばれる状態まで持っていくかを考えるマーケティング事例として、かなり優秀だったのです。

そこで今回は「アボカドマーケティング」と題して、未知の商品が定番になるまでに、人の頭の中で何が変わったのかを見ていきます。

アボカドは、一度日本に来て定着できなかった

日本でアボカド栽培が試された記録は、1915年までさかのぼります。
アメリカから導入された苗木が、現在の静岡県にあった農業試験場で育てられましたが、寒波によって枯れてしまいました。

その後、1970年代後半から1980年代にかけて、アメリカ側の生産者団体や輸出事業者が日本市場の開拓を本格化させます。
店頭での試食、レシピ提案、消費者向け広告、展示会など、今でいう「カテゴリを一から教える活動」が重ねられました。

ただ、商品を店頭に置けば売れるわけではありません。
当時の日本人には、アボカドを判断する物差しがなかったからです。

果物なら、甘いか、みずみずしいか。
野菜なら、煮るのか、炒めるのか。
そのどちらにも当てはまらないアボカドは、味が悪い以前に、どう評価すればいいのかが分からない商品でした。

「珍しいもの」「変わった食べ物」と見られたという話もあります。
ただ、調べた範囲では「ゲテモノ扱いされたから売れなかった」と断定できる一次資料までは確認できませんでした。
少なくとも言えるのは、アボカドが嫌われたというより、受け入れるための認知の置き場がなかったということです。

カリフォルニアロールは、味ではなく「食べ方」を翻訳した

アボカドの普及を語る時、よく登場するのがカリフォルニアロールです。
起源には諸説ありますが、1970年代の北米で広がったこの巻き寿司は、アボカドを日本人にも理解しやすい文脈へ置き直しました。

酢飯と海苔に合わせる。
醤油をつける。
魚介と一緒に食べる。

これなら「どう食べればいいのか」が一目で分かります。
さらに、アボカドの脂肪分とクリーミーな食感が、醤油やマグロと合うことも体験できます。

ここで起きたのは、海外の料理がそのまま日本へ逆輸入された、というだけの話ではありません。
未知の味が、すでに知っている食事の型に翻訳されたのです。

カリフォルニアロールだけが日本での普及を起こしたわけではありません。
それでも、「果物として、そのまま食べるもの」から「寿司や和食にも使える食材」へ見方を変えたことは、大きな転換でした。

「森のバター」と「トロ」が、評価の物差しを作った

知らない味を、知らない言葉のまま説明しても伝わりません。
そこで力を持ったのが、「森のバター」や「マグロのトロのような食感」といった比喩です。

「甘くない果物」と聞けば、期待外れに感じます。
一方、「植物なのにバターのように濃厚」「トロのように、なめらか」と言われれば、同じ味でも評価が変わります。

商品の中身が変わったわけではありません。
変わったのは、食べる側の期待です。

その後は、栄養価や良質な脂質、満足感といった健康面の情報も広がりました。
美容やヘルシーさの文脈でも語られるようになり、アボカドは「変わった輸入果物」から「おいしくて、体にもよさそうな食材」へ移っていきます。

これはキャッチコピーの役割を考える上でも面白いところです。
キャッチコピーは、商品の特徴を格好よく言い換えるためだけにあるのではありません。
相手が商品を評価できる物差しを渡すためにも使えるのです。

定着までに起きた5つの認知転換

アボカドが広がった過程を整理すると、人の頭の中で少なくとも5つの変化が起きています。

1.存在認知|「そんなものがある」と知る

最初は、アボカドという食べ物の存在そのものを知ってもらう段階です。
店頭陳列、広告、展示会、メディア露出が担ったのは、この存在認知でした。

この段階の人に、産地の細かな違いやブランドの優位性を語っても届きません。
まだ比較する棚そのものが、頭の中にないからです。

2.用途認知|「どう使うか」が分かる

次に必要なのは、食べる場面です。
寿司に巻く、醤油をつける、サラダに入れる、マグロと合わせるというレシピが、アボカドを日常へ連れてきました。

商品を知っていても、使う場面が浮かばなければ買われません。
これは講座やサービスでも同じで、「何が学べるか」より前に「どんな時に使うものか」が必要です。

3.評価認知|「何を基準に見ればいいか」が分かる

「森のバター」「トロのような食感」という言葉は、アボカドの見方を変えました。
甘さではなく、濃厚さやなめらかさで評価する食べ物だと分かったからです。

知られていない商品ほど、相手は既存カテゴリの物差しで判断します。
そこで負けているなら、説明を足すより、まず物差しを変える必要があります。

4.便益認知|「自分に何がいいか」が分かる

味や使い方が理解された後に、健康、美容、満足感という便益が効いてきます。
ここで初めて「知っている食材」から「自分が選ぶ理由のある食材」へ進みます。

特徴は商品側の言葉です。
便益は、買う側の生活に起きる変化です。
この翻訳がないと、情報は増えても欲しさは増えません。

5.USP認知|「その中でも、なぜこれを選ぶか」が分かる

カテゴリが定着すると、今度はアボカド同士の比較が始まります。
産地、価格、食べ頃、品質、サイズ、環境配慮などが選択理由になります。

USPとは、数ある選択肢の中で「これを選ぶ理由」です。
存在認知がない段階では早すぎますが、カテゴリが成熟した後は、USPがなければ価格比較へ流れます。

自分の商品は、どの認知で止まっているか

商品が売れない時、すぐに「魅力的なキャッチコピーを作ろう」と考えがちです。
でも、相手がどこで止まっているかによって、必要な言葉は変わります。

次の5つを、自分の商品に当てはめてみてください。

  1. そもそも相手は、この商品カテゴリの存在を知っているか
  2. いつ、どんな場面で使うものかを想像できるか
  3. 何と比べ、どんな基準で評価すればいいかが分かるか
  4. 買うことで、自分にどんな変化が起きるかが分かるか
  5. 似た選択肢ではなく、あなたから買う理由が分かるか

例えば、まだカテゴリ自体が知られていないのに、「業界初」「他社より高機能」と言っても比較の土台がありません。
反対に、誰もが知っているサービスなのに基本説明ばかりしていたら、「結局、他と何が違うのか」が残ります。

存在認知とUSP認知は、どちらが大切かではなく、どちらを先に伝えるべき状態かを見極めることが大切です。

商品の約束そのものが一文で言えない場合は、先にカリキュラムを増やしても単価が上がらない理由で、誰をどこへ連れていく商品なのかを整理してみてください。

今からアボカドを売るなら、何を変えるか

今の日本で「これはアボカドです」と存在を教える必要はありません。
「森のバターです」と説明するだけでも、すでに知っている人には新しさがありません。

もし今から差別化するなら、味の表現より、買う時の不安を減らす方向が強いはずです。

例えば、こんな約束です。

切るまで分からない、を終わらせる。
今日が食べ頃のアボカド。

食べ頃の日付を表示する。
外れだった時は交換する。
産地や追熟の履歴を見られるようにする。

これは単なるコピーではありません。
コピー、商品仕様、売り場、品質保証が一つの約束につながっています。

カテゴリが成熟した後の差別化は、聞いたことのない形容詞を探すことではありません。
その商品を選ぶ時に残っている不便や不安を、一つ終わらせることです。

まとめ|商品を広げるのは、説明の量ではなく認知の順番

アボカドは、ある一つの広告で突然売れたわけではありません。
生産者団体、輸出事業者、商社、小売、飲食店、物流会社が、それぞれ存在、食べ方、評価基準、便益、品質をつないできました。

調べる前は、カリフォルニアロールと「森のバター」というキャッチコピーが普及の答えだと思っていました。
でも、実際に見えてきたのは、もっと立体的な仕組みです。

知られる。
使い方が分かる。
よさを判断できる。
自分に必要だと思える。
その中から、これを選びたくなる。

この順番がつながった時、知られていなかった商品は定番へ変わります。

ここまで読んで「自分の商品は、どの認知で止まっているのだろう」と感じた方は、コピーだけを直す前に、商品から相談までの流れ全体を見た方が早いかもしれません。
価値が弱いのか、使う場面が見えないのか、比較の物差しがないのか、選ぶ理由まで届いていないのか。
詰まりを切り分けると、次に直すべき場所が見えてきます。

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