商品について発信していると、「面白そうですね」「初めて見ました」とは言われる。
でも、申し込みや購入には進まない。
そこで機能やメリットをもっと説明しようとして、さらに情報を増やしてしまうことがあります。
僕がこういう商品を見る時、最初に疑うのは魅力の弱さではありません。
相手の中にある不安を飛び越えて、価値だけを伝えようとしていないかを見ます。
その構造がよく分かるのが、鋭い突起が並んだシャクティマットです。
見た目は痛そうで、価格も安くありません。
それでも世界へ広がった過程を追うと、知られていない商品に信頼を作る順番が見えてきます。
最初から「欲しい」と思われる商品ではなかった
シャクティマットは、布製のマットにプラスチックの突起が並んだセルフケア商品です。
写真だけを見れば、「痛そう」「身体に悪くないのか」「本当に眠れるのか」という疑問が先に出ます。
しかも、突起で身体を刺激する器具自体は、Shaktiが初めて発明したものではありません。
ロシアには先行する類似器具があり、インドの針のベッドを思わせる文化的なモチーフも以前からありました。
Shaktiが2007年にスウェーデンで行ったのは、まったく新しい機能の発明というより、既存の仕組みを家庭で使える商品へ編集し直すことでした。
布やコットンの外観、インドでの手仕事、横になるだけという使い方まで含めて、一つの体験として作り直したのです。
ここが商品設計の面白いところです。
世界初の機能がなくても、顧客が受け入れられる意味と使い方を作れば、新しい市場は生まれます。
一度目の日本進出では、広く定着しなかった
シャクティマットが日本へ入ったのは、現在の公式展開が始まった2022年が最初ではありません。
確認できた記録では、2010年に神戸の専門商社が輸入販売を行い、日本フィットネスヨーガ協会が体験会やレッスンを開いていました。
ヨガや健康に関心がある人へは届きました。
ただ、一般の人が睡眠前や仕事後に使う商品として、広く定着した形跡は確認できません。
同じ商品でも、誰に、どんな悩みの解決策として見せるかで市場は変わります。
2010年前後はヨガ・健康器具という棚に置かれ、現在は睡眠、美容、休息、リセットという棚に置かれています。
商品の中身だけでなく、顧客の頭の中でどのカテゴリに入るかが変わったのです。
信頼設計1|説明する前に、試せるようにした
2007年、スウェーデンでの初披露は展示会でした。
ブースには、来場者が実際に横になれる場所が用意されていました。
これは、見た目と体験の差が大きい商品に合った売り方です。
「痛くありません」「気持ちいいです」と何度説明するより、自分で数分試した方が早いからです。
コーチングや講座のような無形サービスでも同じです。
説明文を長くする前に、短い相談、体験会、公開添削など、提供価値の一部を安全に体験できる形へ変えられないかを考えます。
信頼設計2|企業ではなく、使った人に語ってもらった
現在につながる世界展開は、2014年にニュージーランドで始まりました。
現地チームは最初から大きな広告費を持っていたわけではなく、ヨガスタジオや治療家を直接訪ねて販売していました。
転機になったのは、ウェルネス分野で信頼されていた発信者へ商品を送り、実際の体験として紹介されたことです。
そこからオンライン注文が伸び、スポーツ選手や別の発信者へ口コミが広がりました。
高額商品や見慣れない商品では、売り手が「良い」と言うほど疑われることがあります。
必要なのは、企業の主張を繰り返す人ではなく、「どんな時に使い、何を感じたか」を自分の言葉で語れる人です。
インフルエンサーのフォロワー数より、顧客が抱く不安と、その人が持つ信用が一致しているかを見た方がいいです。
信頼設計3|商品の説明ではなく、生活の場面を変えた
シャクティマットは、最初から同じ言葉で売られてきたわけではありません。
初期にはヨガ、東洋的な健康観、代替療法の雰囲気が強くありました。
現在の日本では、睡眠前、仕事後のリセット、美容、自宅でのセルフケアという場面が前面に出ています。
「突起で身体を刺激する商品」と説明されても、自分がいつ使うのかは分かりません。
「仕事が終わった後、20分横になる」と示されると、自分の一日に置けるようになります。
特徴は商品側の言葉です。
利用場面は顧客側の言葉です。
価値が伝わらない時は、メリットを足す前に「その人の何曜日の、何時ごろに使う商品なのか」まで具体化してみてください。
信頼設計4|著名人は、人気を作るより不安を減らした
現在の日本展開は、2021年の法人設立と、2022年からの販売が起点です。
2023年からイベントや体験機会が増え、2024年3月には一部商品が完売し、予約販売になっています。
美容家の小田切ヒロ氏がYouTubeで紹介したのは、その後の2024年11月です。
後には田中みな実氏や大野真理子氏などの使用も美容媒体で取り上げられました。
つまり、「有名人が紹介したから、ゼロから売れ始めた」という順番ではありません。
先に商品、EC、広告、体験、初期利用者の反応があり、著名人の紹介が「自分も試して大丈夫そう」という安心を広げています。
インフルエンサー施策は、商品設計の代わりにはなりません。
良い体験と語れる理由がすでにある商品を、信頼できる人から次の層へ渡す施策です。
信頼設計5|高い理由を、商品以外にも持たせた
類似する安価なマットがある中で、Shaktiが選ばれるには、突起の数や素材だけでは足りません。
インドでの手仕事、女性の雇用、オーガニック素材、ブランドとしての体験、交換や問い合わせへの対応。
こうした背景が一つになって、価格を判断する材料になります。
もちろん、物語があれば高く売れるわけではありません。
実物の品質や提供体制が伴わなければ、きれいなストーリーは逆に不信感を生みます。
高価格の根拠は、コピーの中ではなく、商品、体験、証拠、提供方法の一貫性にあります。
自分の商品は、どの信頼で止まっているか
自分の商品へ当てはめるために、次の5つを確認してみてください。
- 初めて見た人は、魅力より先にどんな不安を感じるか
- 説明を読まなくても、価値の一部を体験できるか
- 誰の、どんな具体的な使用体験があれば信用できるか
- 顧客の一日のどの場面で使う商品かが見えるか
- 類似商品より高くても選ぶ理由が、提供体制までつながっているか
例えば、講座の内容やサポート回数を増やしても、初めて見る人の不安が「自分にもできるのか」であれば、情報量では解消しません。
必要なのは、近い状態だった人の変化、最初の一歩を試せる場、自分の生活に置き換えられる具体例です。
商品の約束自体を一文で言えない場合は、先にカリキュラムを増やしても単価が上がらない理由で、誰をどこへ連れていく商品なのかを整理してみてください。
未知の商品に、存在、用途、評価基準、便益、選ぶ理由を順番に渡す方法は、アボカドマーケティング|知られていない商品が「定番」になるまでで詳しく扱っています。
医学的な効果と、マーケティング上の物語は分ける
シャクティマットの広がりを考える時、もう一つ見落とせない点があります。
過去には、病気の改善まで期待させる強い広告表現が使われ、スウェーデンの消費者当局から問題視されたことがありました。
特定のマットによる医学的効果を裏づける研究は、現時点では限定的です。
利用者の体験談と、誰にでも再現する医学的な効果は同じではありません。
これは健康商品に限らない話です。
コーチングやコンサルティングでも、一人の劇的な成果を、全員に起きる約束のように見せれば信用を失います。
事例は強く見せるためだけに使うものではありません。
誰が、どんな前提で、何をした結果なのかを具体化し、相手が自分との違いを判断できるようにするものです。
まとめ|売りにくい商品ほど、価値より先に不安を見る
シャクティマットが世界へ広がったのは、強い広告を一度打ったからでも、一人の有名人が紹介したからでもありません。
試せるようにする。
使った人の言葉で語ってもらう。
生活の中の利用場面を見せる。
信頼されている人から次の層へ渡す。
高い理由を、商品と提供体制で証明する。
この順番がつながったことで、「怪しい・痛そう」が「一度試してみたい」に変わりました。
商品が売れない時、価値がないと決めるのは早いです。
相手は価値を理解する前の不安で止まっているのかもしれません。
ここまで読んで「自分の商品は、どの信頼で止まっているのだろう」と感じた方は、商品ページだけでなく、発信、体験、相談、提案までを一度つなげて見た方が早いです。
どこで不安が残り、どこで信用が切れているかを一緒に整理すると、次に直すべき場所が見えてきます。